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――携帯の鳴る音。




『あ、砂川?』
「俺のケータイかけて、俺以外に誰出んだよバーカ」
『素直にそうだって言えよボケ……』
「つか何だよ、ケケッ、またユーレイ出たよ怖いよってかビビリ」
『お前いらねぇことばっか覚えてんな』
「登録名ビビリにしといたからな」
『本気でやったのかよ直せよクソ!』
「テメェの名前なんだっけ?」
『振った炭酸頭からぶっ掛けてぇー』

「テメェの頭にでもぶっ掛けとけ、ンで何だ」
『また機嫌悪いのかよ』
「スコア更新しそうなとこでポーズかけてんだよ」
『俺はゲーム以下か』
「分かってんじゃねェか、早く言えよ」
『ああウッゼェー。――お前今二年だよな。もしかしてダブった?』
「学年ワースト十に入ってたのに何か知らねェけど進級した」
『緩っ!』
「ウッセ」

『ああまあイイや、運良く卒業できたらコッチ戻ってくんの?』
「運よくって何だ死ね。戻んねェ」
『即答しやがったなお前』
「大体ソッチ戻る理由ねェよ。家探すのもメンドクセェし、なんかアテあるわけでもねェし」
『あれ、えーと、何だ……オヤジさんと住んでた家は?』
「元から借家だ、出て来る時に引き払ってる。二つも部屋借りとく余裕ねェわ」
『あー……そうか。……つうかよく住んでたな』
「――バカが部屋で死んだお陰で借り手がいねェって家賃クソ安くなったから居続けただけだ」

『怖くなかったん?』
「死んだヤツの何が怖ェんだ」
『いや何か出たりさー』
「ききっ、またビビリかよ」
『ンだよこの流れ!』
「テメェだろ初めは! イイ加減切るぞビビリ」
『切れよバカ! 死ね!』
「テメェが死ねよアホ!」

――罵倒を投げ付けて切る。



何一つ進歩しないお互いの頭に舌打ちをする。

中学一年の後半だった当時、心配をしなかったわけではない。
死んだ父親が、町中で見かける異様な風体の化物にならない確証など何もなかった。
包丁を持った父親が、切り裂かれた喉を指が食い込むほどに押さえながら襲ってくる夢を見たのも一度や二度ではない。

思い出して、ゲーム画面は止めたままに胸のカッターナイフを取り出して鳴らす。
そんな夢を見て飛び起きた夜は、こんな風に音を鳴らして誰もいない部屋を睨むのが常だった。

――その時は、今度こそ俺が殺してやる。

薄くて脆い、頼りない刃。
けれどそれは確かに、強大で理不尽な暴力を殺せる事を理解したから。
もう二度と戻ってこないように、二度と自分の視界に入らないように。

幸か不幸か、張り替えた床に何かの気配が降り立つ事はなく中学の残りの年数を終えた。
ただ今も、その心に変わりはない。
当たり前だ、悪い頭がそんなに簡単に変わるものか。

カッターを放り投げてゲーム画面に向き直る。
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気が向いたら。 別に面白かァねェぞ。
プロフィール
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砂川 義春
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PBW:TW2、シルバーレインPC、砂川義春の記録。

上記イラストの使用権は義春PL、著作権は七夕絵師、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有。
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