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――29日、夜。





響き渡った音に顔を歪める。
甲高い女の悲鳴ほど、耳障りなものもそう無い。
毒々しい蛇を全身に纏わり付かせた女は、傷口を押さえながら悲鳴の余韻を残して消えていった。
出立までの暇潰しにゴーストタウンに来たのはいいが、B棟に飽きたからと場所を変えたのは良くなかったようだ。
リビングデッドや妖獣は好みだが、リリスは面倒で仕方ない。
遠くから射撃を行ってくる場合が多いし、何より声が煩い。

指先から滴る血を払う。
イグニッションを解除すれば消えることは分かっているが、気分の問題だ。
血の生臭さは好きではない。
腐り更なる悪臭と化しているものならば尚更。

手の中でカッターナイフを鳴らした。
詠唱兵器として強度を増した刃が相手の骨まで削る感触、腐敗し柔らかくなった肉を蹴りで潰す感触にはとっくに慣れた。
しかしどちらかと言えば、やはり気持ちが悪い。
それでも、その行為がうまく行った時には薄い笑いが浮かぶのが分かった。

感触や血飛沫や悲鳴、或いは歪む表情が好ましいのでは無く――。
相手の自由を奪えるという優越感。
自分が上に立っているという優越感。
そういったものが好ましい。

ごきりと首を鳴らして天井を見やる。
古びた天井、打ち捨てられた廃墟。
物音一つしない死んだ場所に立っていると、先程の感触も薄れていく。

明日は戦争だ。
こことは比べ物にならない範囲、町一つがゴーストタウンと化しているらしい。
生きていた人間が、山の様なゴーストに変えられているらしい。

何一つ、大変な事だという実感は湧かない。

銀誓館に入学してから数度そういった戦いには出ているが、どれにも実感といえる程のものは無い。
出てもやる事に変わりない。
普段よりも多い人数で、普段よりも多く強い化け物を切り倒す。
それは確かに「戦争」というべき規模なのかも知れないが、大仰な単語と目の前の現実はどうしても結び付かなかった。
現場に行けば実感も湧くかと考えたが、多分無理だろう。

人のいない街にはきっと違和感を抱く。
だが恐らく、それだけだ。
結局は目の前の敵に、攻撃に集中し――それはいつもの、たった今の行為となんら差が無くなる。
小さな達成感と薄っぺらい優越感の為に振るうだけになる。
実の無い優越感だと知ってはいるが、それを欲しいと願う衝動は抑えがたく、抑える気も無かった。

狙うなら大きいものの方がいい。
そしてなるべくなら全力で叩きのめせる相手がいい。
ゴーストは実に都合のいい相手。

能力者でない人間の安全など、正直どうでもいいのだ。
能力者である人間の無事など、正直どうでもいいのだ。
自分以外の人間の為に命を投げ打てる性格では到底ない。
他人は他人でしかない。

ただ、ゴーストに向かうならば――それらが一応大義名分として付いてくる。
切っても文句は出ない。
好きに踏み潰しても何も言われない。

だから実に、実に都合のいい相手。

そういったつまらない結論に落ち着く。
まあそれでいい。
大義名分など問われた時に適当に答えられればいい。
どんな状況であれ、本心は変わらないのだ。

薄っぺらい優越感が欲しい、ただそれだけ。
体格にも機知にも恵まれない自分が優越感を感じられるのは、この程度。


暗い足元に注意しながらゴーストタウンを後にした。
イグニッションを解除してカードをしまう。

携帯電話で時刻を確認すれば、適当な時間になっていた。
これから学校に向かえば、深夜出発のバスに間に合うだろう。
前日に向かってもやる事はなく、かと言って朝早くに起きられる自信は欠片も無い。
ならば一番楽な選択を取ろう。

軽い欠伸を噛み殺す。



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気が向いたら。 別に面白かァねェぞ。
プロフィール
HN:
砂川 義春
性別:
男性
自己紹介:
PBW:TW2、シルバーレインPC、砂川義春の記録。

上記イラストの使用権は義春PL、著作権は七夕絵師、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有。
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